過去を変えようとタイムスリップしても、大枠はなかなか変えられない話

2025/06/17

むかーしむかし、

あるところにお爺さんとお婆さんがいました。

お爺さんは山でしばかれに。

一方お婆さんは、川へ洗濯をしに行きました。

お婆さんが川で洗濯していると、ドンブラコ、ドンブラコと小ぶりな桃が流れてきました。

「おや、これは運が良いねえ。もって帰って食べましょう」

そう思ったお婆さんは桃を拾い上げようとしましたが、近づいてみるとそれは桃なんかではありませんでした。

山でシバかれたお爺さんだったのです。

「あひゃ……もっとぉ……もっとぶってくれぃ」

興奮のあまり失禁してしまいそうなお爺さん。イってしまっています。

「チィ、まだ生きておったかい」

突然の状況にも関わらず適応能力の高いお婆さん。あやうく水死体になりかけたお爺さんを引っ張り出し、顔面に思いっきり張り手を叩き込みました。

「あっ…♡」

お爺さんは失禁してしまいました。

「このバカ、本当にどうしようもないねえ!」

呆れかえったお婆さんはしばらく放っておくことにしました。

洗濯に戻り、残りの洗濯物に取り掛かり始めました。

……お婆さんは気が付きませんでした。

お爺さんに気をとられている間に、大きな桃が上流から下流へと通り過ぎたことに。

 

―その夜。

「お前は本当に、何べん言ったら気が済むんだい!」

「すまん、すまんかった婆さん……」

洗濯から戻ってずっと、お説教が続いていました。

お爺さんはマゾヒストでした。

山の村に住む女たちに懇願し、時折、ボコボコにされてくるのが唯一の楽しみでした。

そんなお爺さんを、当たり前ですがお婆さんはこころよく思っていませんでした。

痛み、という歪な快楽でしか満足できないお爺さんは、お婆さんと子をなすことができなかったのです。

子どもが欲しかったお婆さんでしたが、既に時遅し。

ドMのお爺さんと惰性で毎日過ごしていました。

 

コンコン。

「ん……?誰かねえ、こんな遅くに」

扉を開けると、近くに住む若い男でした。

「こんばんはお婆さん。また変態爺さんを説教かい?」

「困ったもんだよ。あれで、怒られても喜んでるんだからね。なんの用だい?」

「実はさ、川で捨て子を拾ったんだ」

「捨て子?」

「そう。川に流されちゃったのかなあ。下流で泣いているのを見つけたんだ。岩にぶつかったらしく、傷はあったけど、大事には至ってないようだよ」

「ほう、そうかい。それで?」

「この子、預かってくれよ」

「は?この子を?ワタシが??」

「そうだよ。俺には育てられねえや。頼むよ」

そう言って若者は帰っていきました。

「……」

「おぎゃーおびゃー」

元気そうな子です。お婆さんはこの子に“太郎”と名付けました。

太郎はすくすくと育ち、強い男の子になりました。

ある日、太郎が言いました。

「お婆さん、僕鬼ヶ島へ行って、悪い鬼を退治します」

「まあ太郎、勇敢なのは良いことだけど、婆さんは心配だよ。そんなものは爺さんに行かせておけばいい」

「でも、お爺さんじゃ倒せないでしょう?僕が行かなければ」

「……しょうがないねえ」

この為に太郎を育てたのかもしれない。お婆さんは悟っていました。

「ちょっと待ってな。団子つくってやるからそれを持っていきな。旅の途中でお腹も空くであろう」

こうして“きび団子”をもって出発した太郎。旅を始めてまもなく、イヌに遭遇しました。

「ワンワン、ワンワン」

「鬼ヶ島へ、鬼退治に行くんだ」

「ワン、ワンワン」

「現金なヤツだな。そら、じゃあひとつやるからおともしてくれ」

イヌを懐柔した太郎。旅を続けると今度はサルにありました。

「キー、キー」

「鬼ヶ島へ、鬼退治に行くんだ」

「キーキーキー」

「お前もか。いいだろう。ではついてこい」

こうしてサルも道中を供にすることになりました。

鬼ヶ島まであとわずかというところ、今度はキジに会いました。

「ケンケン!」

「鬼ヶ島以下略」

「ケンケン、ケンケン!」

「君もか。ありがとう。ほら、きび団子をあげよう」

こうしてイヌ、サル、キジを仲間に引き連れた太郎はついに鬼ヶ島へやってきました。

あとはトントン拍子。

イヌ、サル、キジの大活躍で鬼を殲滅させました。

無事に帰った太郎。お爺さんとお婆さんといつまでも、仲良く暮らしましたとさ。

めでたしめでたし。