過去を変えようとタイムスリップしても、大枠はなかなか変えられない話

    2019.3.2

    むかーしむかし、

    あるところにお爺さんとお婆さんがいました。

    お爺さんは山でしばかれに。

    一方お婆さんは、川へ洗濯をしに行きました。

    お婆さんが川で洗濯していると、ドンブラコ、ドンブラコと小ぶりな桃が流れてきました。

    「おや、これは運が良いねえ。もって帰って食べましょう」

    そう思ったお婆さんは桃を拾い上げようとしましたが、近づいてみるとそれは桃なんかではありませんでした。

    山でシバかれたお爺さんだったのです。

    「あひゃ……もっとぉ……もっとぶってくれぃ」

    興奮のあまり失禁してしまいそうなお爺さん。イってしまっています。

    「チィ、まだ生きておったかい」

    突然の状況にも関わらず適応能力の高いお婆さん。あやうく水死体になりかけたお爺さんを引っ張り出し、顔面に思いっきり張り手を叩き込みました。

    「あっ…♡」

    お爺さんは失禁してしまいました。

    「このバカ、本当にどうしようもないねえ!」

    呆れかえったお婆さんはしばらく放っておくことにしました。

    洗濯に戻り、残りの洗濯物に取り掛かり始めました。

    ……お婆さんは気が付きませんでした。

    お爺さんに気をとられている間に、大きな桃が上流から下流へと通り過ぎたことに。

     

    ―その夜。

    「お前は本当に、何べん言ったら気が済むんだい!」

    「すまん、すまんかった婆さん……」

    洗濯から戻ってずっと、お説教が続いていました。

    お爺さんはマゾヒストでした。

    山の村に住む女たちに懇願し、時折、ボコボコにされてくるのが唯一の楽しみでした。

    そんなお爺さんを、当たり前ですがお婆さんはこころよく思っていませんでした。

    痛み、という歪な快楽でしか満足できないお爺さんは、お婆さんと子をなすことができなかったのです。

    子どもが欲しかったお婆さんでしたが、既に時遅し。

    ドMのお爺さんと惰性で毎日過ごしていました。

     

    コンコン。

    「ん……?誰かねえ、こんな遅くに」

    扉を開けると、近くに住む若い男でした。

    「こんばんはお婆さん。また変態爺さんを説教かい?」

    「困ったもんだよ。あれで、怒られても喜んでるんだからね。なんの用だい?」

    「実はさ、川で捨て子を拾ったんだ」

    「捨て子?」

    「そう。川に流されちゃったのかなあ。下流で泣いているのを見つけたんだ。岩にぶつかったらしく、傷はあったけど、大事には至ってないようだよ」

    「ほう、そうかい。それで?」

    「この子、預かってくれよ」

    「は?この子を?ワタシが??」

    「そうだよ。俺には育てられねえや。頼むよ」

    そう言って若者は帰っていきました。

    「……」

    「おぎゃーおびゃー」

    元気そうな子です。お婆さんはこの子に“太郎”と名付けました。

    太郎はすくすくと育ち、強い男の子になりました。

    ある日、太郎が言いました。

    「お婆さん、僕鬼ヶ島へ行って、悪い鬼を退治します」

    「まあ太郎、勇敢なのは良いことだけど、婆さんは心配だよ。そんなものは爺さんに行かせておけばいい」

    「でも、お爺さんじゃ倒せないでしょう?僕が行かなければ」

    「……しょうがないねえ」

    この為に太郎を育てたのかもしれない。お婆さんは悟っていました。

    「ちょっと待ってな。団子つくってやるからそれを持っていきな。旅の途中でお腹も空くであろう」

    こうして“きび団子”をもって出発した太郎。旅を始めてまもなく、イヌに遭遇しました。

    「ワンワン、ワンワン」

    「鬼ヶ島へ、鬼退治に行くんだ」

    「ワン、ワンワン」

    「現金なヤツだな。そら、じゃあひとつやるからおともしてくれ」

    イヌを懐柔した太郎。旅を続けると今度はサルにありました。

    「キー、キー」

    「鬼ヶ島へ、鬼退治に行くんだ」

    「キーキーキー」

    「お前もか。いいだろう。ではついてこい」

    こうしてサルも道中を供にすることになりました。

    鬼ヶ島まであとわずかというところ、今度はキジに会いました。

    「ケンケン!」

    「鬼ヶ島以下略」

    「ケンケン、ケンケン!」

    「君もか。ありがとう。ほら、きび団子をあげよう」

    こうしてイヌ、サル、キジを仲間に引き連れた太郎はついに鬼ヶ島へやってきました。

    あとはトントン拍子。

    イヌ、サル、キジの大活躍で鬼を殲滅させました。

    無事に帰った太郎。お爺さんとお婆さんといつまでも、仲良く暮らしましたとさ。

    めでたしめでたし。

     

     

    この記事を書いたライター
    Yukitsuna Asano

    Mediassort代表。
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